「ただいま戻りましたぁ」
品川駅前に立つ、昨春竣工したばかりの超近代的オフィスビル『シナガワサテライト・タワー』。
その12階にセキネの勤めるオフィスがある。
「ただいまぁ..」体中から女の匂いをプンプンまき散らしながら、関根は自分の会社に戻って来た。
『丸忠商事外商1部第1課主任』、それが関根完二(せきね・かんじ)50才の肩書きである。
「関根主任..香坂課長が探してましたよ。..」
「えぇ~『香坂』がぁ?仕方無いなぁ..」
コーヒーを入れようとした所で、課の若手社員に耳打ちされ、関根は仕方なく一番奥のパーティションに向かった。
「香坂課長、関根です。何かお話があるとか..?」
ノートパソコンに向かって何事か仕事をしていた、関根より『一回り以上年下の上司』は、画面からさっと目を上げると、年上の部下を睨み付けた。
「関根主任、今まで一体、どこに行ってたんですか!..」
30をわずかに超えたばかりで同期のトップを切って課長になった切れ者の上司は、その鋭い眼光をかつての先輩に向けた。
「いえ..何、ちょっとお客さんと打ち合わせがありましてネ。」
ニヤリと卑屈な笑みを浮かべる。
「朝の10時過ぎに出ていったかと思うと、5時近くまで連絡も無く..携帯もつながらないし..一体どこのお客さんの所に行ってらしたと言うんですか?まさか大阪や京都まで往復して来たと言うんじゃないでしょうね!しかも、ライフサポート事業部から大人用オムツのサンプル品まで持ち出して..一体どこへ行ってたと言うんですか!」
香坂課長は怒り満面の表情で、その部下をにらみつけた。
「まあまあ..そんなにカッカせんとも..」
怒りの矛先をずらし、その視線をかわすかのように目をそらして俯く。
..あちゃ..こりゃ相当オカンムリだわ..関根は額から流れる汗を手で拭った。
「いいですか..関根主任..幾らあなたが、私が入社した頃に手取り足取り営業のイロハを教えて頂いた『大先輩』であったとしても、こうもタビタビ無断外出されたんじゃ、庇い切れないんですよ!他の課員の手前もあるんですから、もうちょっと自制して貰わないと..。」
(..何言ってやがんだぁ。てめえみたいな青二才なんぞに庇って貰おうなんざ、これっぽっちも思っちゃいねぇよ..関根は心の中で舌を出した。だが、それをおくびにも出さない所は、さすが百戦錬磨の営業マンである。)
「いやぁ、課長すみません。今度から気をつけますので..。」
「あのですねぇ『今度から』、『今度から』って..、一体何回、それを聞かされればいいんですか?」
(年下のくせに偉そうにしやがって..ああん?!..一体何様のつもりだ!ハイハイすんません..あんたの言う通りだよ。どうせこの年になってもまだ主任どまりのサエないオヤジだよ..。)
そんな『思い』を心の中で呟きながら、関根は黙って頭を垂れていた。
幾ら言っても仕方ないと思ったのか?
それとも、見せかけの殊勝な態度に騙されたのか?...
ともかく香坂英二は、年上の部下に対する叱責をやめる事にした。
「まあ..過ぎた事は仕方ない。以後、気をつけるようにして下さい。
..ところで、1カ月後に迫った米国エレクトロライト社のミッションの事ですが..。」
話の焦点がやっと次の話題に移った事を知った関根は、ホッと胸を撫で下ろした。
「はい、わかっております。万事抜かりなく..。」
「お願いしますよ。20年前に、当時まだ上席常務であったクロントン氏を接待した経験があるのは、今や関根主任しか残っていらっしゃらないんですから。」
「わかってます。お任せ下さい。」
「それと、クロントン氏の『例の嗜好』については..」
「大丈夫です。実は今日も、その事で幾つかあたりをつけていたトコでして。」
..やはりそうか..香坂はあらためて部下の行状にがっくりと肩を落とした。
『あたりをつける』とは、昼間さぼってSM関係の風俗にでも入り浸っていたことを白状するようなものでは無いか。
こういう事を平気で言いながら少しも悪びれた所が無い。
半分呆れながら、香坂は力無く言うしか無かった。
「お願いします。私は、ノーマルなもので、どうもそう言った事については疎くて..」
「ハハハ..その点はどうかお任せ下さい。決して抜かりはありませんから。」
「..しかし何ですなぁ、私は課長のご結婚された当時には、もう大阪に飛ばされて居たんでよくわからないのですが、課長の奥さん、当時新入社員として入社された中で一番の美女を奥様に娶られたんでしょう?」
話はいつの間にか世間話に移っていた。
「はは..まっ..まぁ..」
妻の事を『美人』と褒められるのは満更でもない。
「噂じゃ、役員秘書あたりに使おうと思っていたのに、入社1年でコトブキ退職されたと言うじゃないですか。聞きましたよ..人事からはそうとう恨まれたんでしょう。..?」
「いっ..いやぁ..」
香坂英二は、どうもこう言った『歯の浮くような、見え透いたお世辞』に弱い。尤も、妻の亜希子がまだ新入社員の頃『ミス・丸忠』と評せられ、多くの男性社員のあこがれの的だった事も事実だし、そのハートを射止めた為に同期や先輩から、相当なやっかみを受けた事も確かだったから、まんざらでも無い。
「しかし何ですなぁ..そんな美人を奥様にされたのに、『ノーマルばかり』とは、勿体ない..。」関根がボソっと呟く。
「えっ..、何か..?」関根の呟きがよく聞こえなかったのか、香坂は訊ねた。
だが、当然の事ながら、関根は適当にごまかした。
「いや、いいんです、いいんです。」
「まあ、いいでしょう。その話はこのあたりでやめておきましょう。それより、クロントン氏の件、よろしくお願いしますよ。」
「はい..」
関根は、頭をペコリと下げて年下の課長のもとを辞去した。
「全く..困ったモンだ..」関根が部屋を去った後、一人残った英二は、見るとも無しに、窓の外をながめていた。
米国・エレクトロライト社CEOのチャールズ・クロントンは、英二の課の抱える最大案件の戦略パートナーであったが、実はサディスティックな性的嗜好を持つ事でも知られていた。
そして、ジャパニーズ・ガールの肌に特別な執着があり、これまでの国内各社との業務提携ミッションが、全て夜の接待の場で決まって来たことも、有名な話であった。
英二の部下、関根完二は、かつて英二が新入社員として入社した時の英二の課の係長であり、営業のイロハを教えて貰った大先輩でもある。
そして、新人研修が終わった頃に、英二は営業に配属になり、そのまま課長代理に出世した関根を、『上司』と、仰ぐようにもなった。
10年前の事になる。
良くも悪くも、『営業のイロハ』を、大学出たての新人に仕込んでくれたのは大先輩の関根であったし、そう言う点は実にありがたいと感謝もしている。
だが、関根には一つだけ、どうしても英二には理解不能な側面があった。
それは、関根がきわめて『サディスティック』な性的嗜好を持っていた事である。
関根が2度も結婚しながら、2度とも妻に逃げられた事実も、その性的嗜好が災いしていた..。いや、そうではないかと社内では噂されていた。
だが、そうした『嗜好』が希少価値を持つケースだってある。
20年前にまだエレクトロライトの上席常務に過ぎなかったクロントン氏が来日した時が、ちょうどそうであった。
そう、おわかりであろう。『類は友を呼ぶ』のたとえ通り、歴史的な国際提携ビジネスの際に、その『夜の下半身の接待』を企画し、見事成功させたのが、当時外商1部第1課の課長代理であった『関根』だったのである。
まだSMクラブなるものが社会的にあまり認知されておらず、SM自体が異端視されていた、その時代、どこからか『調達』して来た美女を使って、クロントン氏を大いに満足させ、大きな成果を上げたのは、全て関根の功績であった。関根はその功績によって翌年の社長賞を手にし、課長への昇進が決まった。
『アイツはアメリカ人に日本の女を抱かせて出世したのだ。』と言う陰の声もあった。
だが、ビジネスは結果が全てであり、人が何を言おうと、結果を出した者の勝ちである。
関根は有頂天になった。いかにそれに見合う功績があったからとは言え、商業高校卒の自分が、並み居る大卒のエリートをさしおいて、丸忠のエリート・キャリアとも言える『外商1部の課長』に昇進するのだ。
有頂天になるなと言う方が無理であろう。
だが、順風満帆に見える航路にも必ず落とし穴がある。
思わぬスキャンダルに足を掬われた関根は、一挙に坂道を転がり落ち、凋落の一途を辿る事になるのである。
それはふとした事から発覚した。
関根がどこからか調達し、クロントン氏に抱かせた素人M嬢..、実は関根の担当する大手取引先の『社長令嬢』だったのである。
『社長令嬢』とは言っても地方の代理店のこと。
婿を取って、行く行くは会社を任せようと、将来の後継者として見習いもかねて父親である社長会社で経理の仕事や、社長秘書の様な事もやっていた。
そこに出入りし、令嬢の心を射止めたのが、当時外商部でバリバリの営業マンだった関根。
20そこそこの世間知らずの娘にとって、関根の語る世間の話は興味を引き、やがてそこに出入りしているうちに娘と関根は深い仲になった。
性的な好奇心の強い年頃の事、関根によってマゾとして開花する事になるのに、そう時間を要するものでは無かった。
実は、当時妻も子供もいながら、関根にはこうした『プレイメイト』が5~6人居た。
30代後半から40代にかけての最も精力溢れる時期の事である。営業の第一線でバリバリ活躍している関根にとって、こうした『女』達の存在は一種の勲章の様なものであった。
だが、唯一の誤算は、相手が関根ほどに割り切ってつきあう事が出来なかった事である。
娘は、関根が妻と別れて自分と結婚してくれるものだと思っていた。
だが、関根にそんな気は更々ない。
誤解を避ける為に言えば、妻を愛しているからでは無い。この種の男は元々女に束縛される事を嫌う。だから、女の要求を拒否したのだった。
従って、仮に関根がこのとき独身であったとしても、結果は同じであったろう..。
しかし、関根を信じ、その出世の為に外国人社長への人身御供に捧げられた『令嬢』は『裏切られた』と思った。
思っただけでなく、何と会社にも乗り込んで来た。
『自分はこの男に騙され、外人の前で縛られ、SMを強要された。この男を首にして欲しい』と営業部に於いて大声で叫ばれた。
そして、娘に事情を聞いた取引先の社長も怒った。
怒って旧知の営業本部長に電話し、取引の中止を申し入れて来た。
『関根は自分の出世の為に取引先の娘を騙して、外国人の接待用の人身御供にした、他にも被害者がいるらしい。』と言う話は、あっという間に社内に広がった。
そうなると、我も我もと関根に利用された女達が復讐に転じた。
数日後..、人事本部長の机には、匿名ながら関根の悪業を暴露する手紙が、山と積まれる事になったのである。
なぜこんな事態を招いたのか..。
理由は簡単である。
実は、関根に騙されSMプレイの餌食にされた女性は過去何人も居た。
たった一度のセックスでアナル・セックスを強要され、逃げ出した女性社員も居る。
しかし、被害を受けた女性達が非難の声を上げる事は無かった。
なぜか..
もしこの事が発覚しなければ、外商1部のホープである関根が傷つく事を恐れた会社は、被害者である女の方だけをクビにして事の発覚をもみ消したはずである。
かつてセクハラが全国的な話題になる前、こうした事は日本国内のあちこちの企業で発生し、闇に葬られて来た。
しかし、その時追い風は女の側に吹いた。
取引先とのトラブルによって、関根の信用は完全に失墜した..。
結婚をエサに、(当時の感覚では)変態的なプレイを強要された上に、捨てられた、関根の『過去の女』達が、一斉に非難の声を上げた。
こうして、『女の敵』『変態』関根は、スキャンダルによって解雇寸前にまで、追い込まれる事になったのである。
しかし、ここから関根も巻き返しに出た。
何と、かつて関根と共に、『SM接待に参加した』上層部社員の名前を公表するぞ..、と揺さぶりをかけたのだ。
結果..、関根の首は皮一枚で繋がる事となった。
勿論、こんな大事をしでかし、無傷で済むわけもない。
関根は地方支社への『左遷』と、『平社員への降格』、更には愛想をつかされた妻との離婚..と言う、大きな代償を払う事になった..。
こうして、『女の敵』は去り、本社には一時の平和が訪れる事になった。
そして、その翌春、関根不在の丸忠本社に、亜希子達が新入社員として入社する事になったのである。
カチカチッ..画面の表示は、関根の送り出した画像をネット上にアップロード中である事を示している。
「おっ..主任、またですかぁ」
関根の後ろから画面をのぞき込んだ若手男性社員が言う。
関根が勤務時間中に、会社のネットPCを使ってアダルト系サイトにアクセスしている事を知らぬ者はいない。
10年間の地方回りによる禊ぎ(みそぎ)を経て、本社に『主任』の肩書きで復帰以来、関根には『変態オジサン』のあだ名がつけられていた。
昔を知る者も多かったが、今や半分禿げ上がった往年のプレイボーイ等相手にする女子社員もいない。
いわば彼に対する蔑称であったのだが、関根自身、そう呼ばれる事を気にとめる風も無かった。
つまり、勤務中にアダルトサイトを見ていても、『関根主任なら仕方が無い』と言う評価が固定している。関根自身、そう言われるのを楽しんでも居た。
或る意味、『得な』キャラクターになっている。
「うるさいなぁ。今、出張報告を書いている所なんだから邪魔すんなヨ。」
そう言うと、その若手社員をシッシと遠ざける。
「課長に知られると、今度こそ大目玉ですよぉ。早いトコ、マシン落とした方が無難ですよぉ~」
捨てぜりふを残しながら、若手社員は席へと戻った。
「うるさいヤツめ。全く..課長が何だって言うんだ!」
よりによって、課長を引き合いに出すなんて..面白くも無い!..。
そう心の中で呟くと、再びモニターに向かう。
実は、関根にはもう一つ、やらなければならない事が残っていた。
それは、今日の奴隷オークションで落札した女奴隷の感想レポートを書き、サイト上にアップロードする事である。
レポートは秘密サイトのデータとして会員に公開されるだけでなく、次回オークションでの価格設定などにも反映される。
「..ええと、『本日の人妻アキコは、感度も良く、特に肥大化した肉厚の女性器は触れるだけで潮を噴く様な乱れっぷりであり..電車内とファミレス内の露出プレイに於いては...』..」
カタカタとキーを鳴らしながら秘密掲示板に打ち込んで行く。
最後に今日撮影した画像を添付ファイルとして送れば終了である。
この『仕事』による練習の成果で、関根は年齢のわりに滅法キーボード入力が早くなった。
「あれぇ..また『投稿』っすかぁ?関根さんも好きですねぇ。一体どこからこんな写真ばかり集めて来るんですかぁ?」
いつのまにか先ほどの若手社員が後ろに立っている。
一瞬焦った関根は、怒りを込めて言った。
「うるさいヤツだ。『あっちへ行ってろ』って、言ったろう..!」
「まあまあ..そんな怒んないで..」
若手社員は笑いながら言った。
レポート文の方はアップロードした後だから、中身を読まれた心配は無い。ただ、画像の方だけでも見られてしまったのは、迂闊だった。
非公開・秘密厳守のサイトだから、アップする画像に目線は入らない。
つまり、全くの素顔を見られてしまった事になるのだ。
「黙ってろよ..。今度おごってやるから..。
「わかってますよ。」若手社員もちゃっかり心得たものだ。
その時だった。突然その社員は奇妙な事をしゃべり始めたのだ。
「あれぇ..?この写真の顔..どこかで見た事があるなぁ..」
一瞬『ビクッ』とする、関根..。
「バカ言うんじゃねえよ」
そんなハズは無い..関根は鼻で笑った。
どうやらこの写真も、まさか関根自身が撮影して来たものとは思って無いようだ。それならばそれでいい。その方が都合が良かった。
しかし、SMパーティーに来るタマの中でも今日のアキコと言う女はかなりの上玉の部類に入る。
どこで見た(と思っている?)かは知らないが、こんな世間知らずのお坊ちゃんが知っているハズもない。
おそらくは他人の空似だろう..
そう思った。
「あれっ、どこだったかなぁ..いつの事だったかなぁ..」
腕組みしながら頭を抱えている若手社員を見ながら関根は言った。
「死ぬまでやってろ!バカ」
だが、その若手社員が思い出したなら、おそらくは大変な事になっていたろう..。少なくとも相当に混乱し、頭がパニックになっていたはずである。
何故ならば、彼がその女性を見た場所..それは、先週の接待の帰りがけに突然『お呼ばれ』で行った、『課長の家』だったからである。
「じゃあ、お母さん、もう帰るから..」
「何だ、帰るのか?まだ早いんじゃないか..。どうせ英二君は今日も遅いんだろう?」
「うん..けど、夕飯の支度もあるし。」
「たまには実家で食べて行ったらぁ?英二さん、遅くなったら、どうせ外食なんでしょう?」
「うん..でもいいわ。今日は早く家に帰ってゆっくりしたいの。」
「『カラテビクス』だか、『ボクササイズ』..って言ったっけ..?
いくらダイエットの為だと言っても、そんな格闘技の真似ごとなんかして、大丈夫なの?そんなに体中に痣つけて..。それになんだか今日1日でげっそりやつれたみたいだし..」
まさかSMパーティに参加するから子供を預かってくれと言うわけにも行かず、苦し紛れにアキコは、『ダイエットの為に教室に通う事になったから』と、言っていた。
そして、両手に残る赤や青い痣の事を不審に思った両親から問われ、咄嗟についたウソが、『格闘技系のダイエットをやっていて、ついた痣だ。』
と言う話であった。
勿論、真っ赤なウソである。
『ボクササイズ』や『空手ビクス』は格闘技をベースにはしているものの、『格闘技』では無い。そんな痣がつくような事は、まずあり得ないのだ。
「大丈夫よ。それにコレ、ハマルと結構楽しいのよ!」
つとめて明るく振る舞いながら言う。
..お父さん..、お母さん..ゴメン..
本音としては、実家でゴロゴロとしていたい。
親に甘えてゆっくりしたい。
だが、あまり長居すると、手首だけでなく、体中に残る鞭の痕まで、ばれる恐れがある。
夫の目は誤魔化せても、親の目は誤魔化せない。親とはそう言うものだ。
だからこそ亜希子は実家での長居を避けた。
「じゃあ、また今度ね..」
「ああ..」
門の脇に立っていつまでも見送る両親の姿をバックミラーでながめ、罪の意識を覚えながら、亜希子は帰宅後に立ち上げて見ることになるであろう『ご主人様』からの『お褒めの言葉』を心待ちにして
いた。
車のサイドウィンドゥから差し込む真っ赤な夕陽の光が亜希子の横顔をキラキラと照らし、期待に高鳴る心に紅潮する亜希子の頬を、一層赤々と燃え上がらせるのであった。
カタカタカタ..
キーボードを叩く音だけが響く。男は一心不乱にキーボードをうち続けていた。
手元には、画面からプリントアウトされた『女』の調教画像があった。
オークション会場でよってたかって責め嬲られる女、浣虐に悶え苦しむ女そして、電車やファミレスの中で公衆の面前に裸体を晒す女..
どれも男にとって、予想以上の成果を示すものだった。
「ふふ..」唇の端に浮かぶねじれた笑み..、そして画面に打ち出される複数の文字..。
「ワ、タ、シ、の、..メ、ス、ド、レ、イ、..ア、キ、コ..へ..」